はじめに
今回は、三菱電機やデンソーとの提携で話題のアメリカ企業であるCoherent Corp.(コヒレント)について、簡単にまとめてみました。コヒレント社は、産業・通信など向けの材料から産業用レーザーなど幅広い事業を手掛ける企業ですが、今回はその中でもSiC事業に絞った内容をまとめることにしました。拙い文章で恐縮ですが、ぜひ最後までご覧ください!
*公開資料を基に客観的事実に基づいてまとめたつもりですが、一部認識の誤りや不備がある恐れがあります。予めご了承ください。
また、弊ブログでは半導体業界の業界研究をテーマに記事を書いております。他の記事もぜひご覧ください!
コヒレント社の概要とSiC事業会社について
コヒレント社ウェブサイト
Global Leader in Materials, Networking, and Lasers | Coherent
会社概要
社名 | Coherent Corp.(コヒレント) |
会社設立年 | 1971年 |
所在地 | 米国ペンシルベニア州サクソンバーグ (375 Saxonburg Boulevard, Saxonburg, PA, 16056 – United States) |
代表者 | Dr. Vincent D. Mattera, Jr. |
従業員数 | 26,000人(FY2023末日時点) |
事業内容 | 産業、通信、エレクトロニクス、装置組込み市場向けの材料(光学・半導体など)、理化学用・産業用レーザーのなどの開発、製造、販売 |
売上高 | 52億USD(FY2023) |
同社は米国のナスダック市場に上場しています。【COHR】
・Coherent Corp. Common Stock (COHR) Stock Price, Quote, News & History | Nasdaq
・コヒレント【COHR】:株価・株式情報 – Yahoo!ファイナンス
沿革
1971年、産業用レーザの高品質な材料と光学部品を製造することを目的に、COHERENT, INC.は設立されました。2016年にドイツの産業用レーザメーカー大手、ROFINを買収し、材料加工レーザとレーザベースのソリューションの広範なポートフォリオを取り入れました。その一方、2021年には、工業材料・光電子部品の世界的リーダーであるII-VI社(II‐VI Incorporated (Nasdaq: IIVI)(ツーシックス))によって買収され、社名もII-VIに統一されます。2022年7月、両社のさらなるブランド認知を目的に、II-VI社が社名を変更し、 現在Cohrent Corpに統一されています。
2023年度の業績と売上内訳
2023年度の売上高は52億米ドルでした。セグメント別では、素材事業が26%、ネットワーキング事業が45%、レーザー事業が29%をそれぞれ占めました。
Investor Presentation (coherent.com)
コヒレント社のSiC事業
SiC基板事業
コヒレント社および前身のII‐VI社におけるSiC基板事業の変遷は上の2つの資料の通りです。2000年の2インチSiC基板の生産に始まり、2013年には150mmSiCウェーハの量産化に成功しています。また、200mmの大口径SiCウェーハの研究開発を行っており、2024年の量産開始を目指しています。この200mm(8インチ)SiC基板については、日本の三菱電機との共同研究に同意しています(詳細は後述)。加えて、更なる大口径化を目指して、世界初の300mmSiCウェーハの実現に向けた研究開発に着手しています。
また、2022年8月には、ドイツのインフィニオン社との間で、炭化ケイ素 (SiC) ウエハーの複数年供給契約が締結されています。加えて、戦略的パートナーとして、ツーシックス社とインフィニオンは、直径200mmのSiCウエハーへの移行においても協力するとしています。
Investor Presentation (coherent.com)
Silicon Carbide (SiC) Substrates for Power Electronics | Coherent Corp. (ii-vi.com)
インフィニオン、米ツーシックス社と供給契約を締結し、炭化ケイ素 (SiC) ウエハーの供給元を拡大 – Infineon Technologies
SiCデバイス事業
コヒレント社および前身のII‐VI社におけるSiCデバイス事業は上の資料の通りです。SiC基板からSiCモジュールに至るまでの垂直統合型ビジネスを展開しています。特に、SiCチップ・デバイス・モジュールに関しては、2020年にGE(ゼネラルエレクトリック社)からのライセンス供与契約を締結しています。GEにおけるSiC関連の特許活動は2000年代後半から始まり、主にSiC MOSFETのプレナー型(平面)デバイスアーキテクチャーに強みを持っているようです。
II-VIがGEとSiC応用品でタッグの意味、プレナー型に注視必要 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
直近のSiC事業における設備増強
前身のII‐VI社は、2020年5月の投資家向け説明会にて、2020年から2025年にかけての5年間で、直径200mm基板を含むSiC基板の製造能力を5倍から10倍に拡大すると発表しました。
また、この計画の一環として、中国福建省福州市のSiCウェーハ処理拠点の規模拡大を2021年4月に発表しました。アジア向けの需要に対応するため、エッジ研磨・化学機械研磨・洗浄・検査を含むバックエンド処理ラインを、50,000平方フィート以上のクリーンルーム内に新設しました。
・Silicon Carbide (ii-vi.com)
・II-VI Incorporated Expands Silicon Carbide Manufacturing Footprint for Power Electronics in Electric Vehicles and Clean Energy Applications | Coherent
II‐VI社は2022年、今後10年間で炭化ケイ素(SiC)に10億ドルを投資すると発表しました。また、この投資の一環として、ペンシルベニア州イーストンとスウェーデン・キスタの大規模な工場拡張を実施し、150mmおよび200mmの炭化ケイ素(SiC)基板およびエピタキシャルウエハー製造への投資を加速すると発表しました。この投資によるイーストンの150mmおよび200mm SiC基板の生産量は、2027年までに年間150mm基板100万枚分に達し、200mm基板の比率は時間の経過とともに増加すると予想しています。また、スウェーデンのエピタキシャル・ウェーハ生産能力の拡大は、欧州市場へのサービス提供を目的としています。
SiC事業子会社 Silicon Carbide LLC (シリコンカーバイド)の概要
社名 | Silicon Carbide LLC (シリコンカーバイド) |
会社設立年 | 2023年4月 |
所在地 | Corporation Service Company, 251 Little Falls Drive, Wilmington, Delaware 19808 |
代表者 | Sohail Khan |
事業内容 | SiC基板、エピタキシャルウエハーの製造 |
シリコンカーバイド社は、コヒレント社のSiC事業を子会社として分社化して設立されました。分社化後は、コヒレント社のエグゼクティブバイスプレジデント、ニューベンチャー&ワイドバンドギャップ・エレクトロニクス技術統括責任者であるソハイル・カーンが引き続き同事業会社の統括を行うとのことです。
日本企業とのSiC事業における提携
住友電工へのGaN-on-SiC HEMT向け150mmSiCウェーハの提供
コヒレント社と前身のII‐VI社は、住友電工向けに150mmSiCウェーハを提供してます。このSiウェーハは、主に次世代のワイヤレスネットワークを実現するRFデバイスである窒化ガリウム(GaN)オンSiC高電子移動度トランジスタ(HEMT)デバイス(GaN-on-SiC HEMT)の製造に使用されています。この貢献が認められ、II‐VI社は2021年に住友電工の”EXCELLENT PARTNER AWARDS”を受賞しています。
II-VI Incorporated Wins Excellent Partner Awards from Sumitomo | Coherent
三菱電機との8インチ SiC 基板共同開発
2023年5月26日、三菱電機株式会社は、Coherent Corp.とパワーエレクトロニクス市場向け 8 インチ SiC 基板の共同開発について基本合意書を締結しました。
この発表に先立って、三菱電機は同年3月に、大口径化(8 インチ)に対応した新工場棟を建設し 2026年に稼働開始する旨を発表していました。そこで両社は、この新工場棟で生産する SiC パワーデバイスに使用する高品質な 8 インチ SiC 基板を共同開発することで、パートナーシップを強固なものとし、SiC パワーモジュールの安定供給を目指すこととしました。
Coherent Corp. 執行副社長 Sohail Khan 氏 コメント
「SiC パワーモジュールの先駆けであり、日本の有名な新幹線を含む高速鉄道車両向けなど SiC 製 品で豊富な実績を持つ三菱電機と関係を強化することを大変嬉しく思っております。私たちは、 三菱電機に SiC 基板を供給してきた長い実績があり、8 インチ SiC 製造プラットフォームに向け 三菱電機と関係を深めていくことを楽しみにしております。」
Coherent Corp. , 三菱電機株式会社
三菱電機株式会社 上席執行役員(半導体・デバイス事業本部長)竹見 政義 コメント
「Coherent は、当社に高品質な 6 インチ SiC 基板を長年供給いただいている信頼できるサプライ ヤーです。私たちは、両社の SiC 製造プラットフォームを 8 インチに拡張するためにパートナー シップを強固なものにすることを喜ばしく思っております。」
三菱電機株式会社
0526-c.pdf (mitsubishielectric.co.jp)
三菱電機 ニュースリリース 三菱電機 SiCパワー半導体の生産体制強化に向け新工場棟を建設 (mitsubishielectric.co.jp)
デンソーと三菱電機によるSiC事業会社への出資
2023年10月10日、株式会社デンソーと三菱電機株式会社はそれぞれ、Coherent Corp.が2023年4月に設立したSilicon Carbide LLCに対して、5億米ドル(約745億円*)、2社合計で総額10億米ドル(約1,500億円*)の出資を行うと発表しました。また、コヒレント社も同日に、両者からの出資の旨を発表しました。
この出資により、デンソーと三菱電機はSilicon Carbide LLCの12.5%の株式を取得することになり、残りの75%はコヒレント社が保有することとなりました。
また、今回の取引により、コヒレント社のSiC事業会社はデンソーおよび三菱電機と長期供給契約を締結、当社の150mmと200mm基板およびエピタキシャル・ウエハに対する需要に対応します。
デンソーはこの取引において、150mmと 200mmのSiCウエハーの長期安定調達を実現するとともに、電動車のモーターを駆動・制御するインバーターの競争力をより一層強化することを目的としています。
三菱電機はこの取引において、Coherentとの連携をさらに深化させることで、急成長が見込まれるSiCパワーモジュール市場において、SiC基板の一層の調達安定化を図り、高性能で信頼性の高い製品を安定供給して事業を拡大することを目的としています。
コヒレントの会長兼CEOを務めるビンセント・マッテラ(Dr. Vincent D. Mattera, Jr.)は次のようにコメントしています。
「今回、デンソーおよび三菱電機との戦略的パートナーシップを一段と強化し、SiCの需要拡大に確実に対応していくことが可能となることを大変喜ばしく思います。当社ではSiC事業について徹底的な検討を重ねた結果、長期的成長のための事業基盤を確固たるものとし、株主価値の拡大につなげるためには、新たに子会社として分社化し、SiCパワーデバイス分野をリードするデンソーおよび三菱電機からの戦略的出資を受けることが最善の策であると判断しました。戦略的パートナーからの今回の投資によって、当社ではSiC生産能力増強計画を加速化させ、業界におけるリーディングポジションの維持につながると確信しています。同時に、世界のEV市場の爆発的拡大を受けて需要が急増するSiCパワーエレクトロニクス市場向けに、拡張可能な基板の安定供給を実現することが可能となります。」
Coherent Corp.
株式会社デンソーの林新之助 代表取締役社長は以下のようにコメントしています。
「SiCウエハー製造において世界トップクラスの実績を持つCoherentとのパートナーシップを築けることを大変うれしく思います。自動車の電動化が加速していく中、半導体は競争力の鍵を握る極めて重要な部品の一つです。本出資を通じて、BEVに必要不可欠なSiCウエハーの安定調達を実現し、BEVを普及させることで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。」
株式会社デンソー
三菱電機株式会社 竹見 政義 上席執行役員(半導体・デバイス事業本部長)は以下のようにコメントしています。
「近年、脱炭素社会の実現に向けた電気自動車の世界的な需要の拡大に伴い、SiCパワー半導体需要の急拡大が予想されています。この市場の需要拡大に対応するため、当社は熊本県泗水地区における8インチウエハ新工場棟の建設をはじめとしたSiCパワー半導体の生産体制強化に向けた投資を決定しております。本出資により、供給力向上に欠かせない高品質のSiC基板の安定調達に向けた、Coherentとのパートナーシップがさらに強固なものとなることを喜ばしく思っております。」
三菱電機株式会社
・米コヒレント、デンソーと三菱電機よりSiC事業向け出資10億ドル受け入れへ (coherent.com)
・三菱電機 ニュースリリース 米国CoherentのSiC事業会社へ出資 (mitsubishielectric.co.jp)
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