【味の素×半導体】味の素ビルドアップフィルムの凄さとは?

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はじめに

 今回は、冷凍餃子などで知られる味の素が手掛ける、現代の半導体製造に必要不可欠な素材「味の素ビルドアップフィルム(通称:ABF)」についてまとめてみました。現在では全世界の主要なパソコンなどの層間絶縁材のほぼ100%のシェアに達しているABFが開発された背景や必要不可欠性、売り上げ動向などについてまとめています。

出典:味の素株式会社

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味の素ビルドアップフィルムについて

味の素ビルドアップフィルム 通称ABFとは?

 味の素ビルドアップフィルム® (Ajinomoto Build-up Film, ABF)(以下、ABF)とは、味の素株式会社の子会社である味の素ファインテクノ株式会社が手掛ける層間絶縁フィルムです。ABFは下図のようなICチップの土台である半導体パッケージ基板の絶縁材料として使用され、パソコンの中央演算処理装置(CPU)向けでは全世界でほぼ100%のシェアに達しています。

出典:味の素ファインテクノ株式会社

ABFの強み・開発経緯

 1990年代後半、半導体実装工程において「プラスチック製基板」と「フリップチップ接続」という2つ技術が主流となりつつありました。これらの技術の台頭により、配線の高密度化、信号の高速伝送、基板の軽量化が可能になり、高性能パソコン普及のきっかけとなりました。
 半導体パッケージ基板やプリント配線基板の製造において、従来は液状の層間絶縁材(ビルドアップ材)が一般的に使用されていました。しかし、液状材料には以下のような欠点がありました。

・コーティング時の気泡の発生や品質の不均一性
・片面ずつの絶縁層形成によるプロセの煩雑化
・絶縁樹脂が回路の凸凹に追従して平滑性が悪く微細回路形成に適していない
・溶剤の臭気による作業性の悪化
・高圧の真空熱プレス作業の長時間化、煩雑化

 しかし、フィルム状の層間絶縁材であるABFの導入により、上記の課題を以下のように解決できました。

・気泡の発生がなく、表面平滑性に優れ、膜厚のコントロールが容易
・両面同時加工が可能で生産性が向上
・溶剤の揮発が無く、作業環境を悪化を防止
・真空ラミネータを使用して低圧で効率よく多層基板を作成でき、プロセス時間とコストを低減

 上記のような技術的優位性に加えて、層間絶縁材メーカーとしては後発だったものの、他社に先駆けてフィルム状の層間絶縁材の開発に世界で初めて成功し、シェア獲得につながりました。加えて、直接顧客だけでなくバリューチェーン全ての会社と緊密に連携することにより、開発段階から顧客ニーズを満たす営業スタイルを確立しています。
 以上の点がABFの競争優位性と参入障壁となっています。

出典:味の素株式会社

ABFのバリューチェーン・製造プロセス

 ABFのバリューチェーンは以下のようになっています。味の素グループでは主に、ABFのフィルムの原料となるワニスの製造と研究開発を担っています。研究開発では、前述のようにバリューチェーン全ての会社と緊密に連携することにより、開発段階から顧客ニーズを満たすスタイルを取っています。

出典:味の素株式会社

 製造工程では味の素ファインテクノではワニス製造のみを行い、フィルム状に加工する塗工工程と倉庫保管・物流工程を外部に委託しています。
 特に塗工工程では、味の素ファインテクノで製造されたワニスをPETフィルム状に塗布・乾燥させ、その上に保護フィルムを被せることで完成します。この塗工工程のは群馬と新潟の2社に委託しています(2019年資料より)。群馬の委託先は藤森工業株式会社(証券コード:7917)であり、こちらは藤森工業のニュースリリース等にてABFの塗工を受託していることを明言しています。一方で新潟の委託先企業は公表されていません。ただし、新潟県のフィルム製造企業と味の素の資料に示された工場の航空写真から、株式会社有沢製作所(証券コード:5208)ではないかと推測しました。

出典:味の素株式会社

ABFの売上げ高・世界シェア

 ABFの2000~2019年における売上高の推移は以下のようになっています。2008~2012年の調整期間を挟んで、2000から19年で売上高は8倍となりました。また、味の素・藤江社長は2022年11月のBloombergのインタビューにて、ABFの出荷量の2026年3月期までの3カ年の年平均成長率を18%と予想しました。

出典:味の素株式会社

 使用用途別では、PC向けとサーバー・ネットワーク向けで全体の90%を占めています。2013年ではPC向けが50%でサーバー等向けが40%だった一方で、2021年はその比率が逆転しています。

出典:味の素株式会社

 2023年3月期の決算説明資料では、サーバー / ネットワークの伸長が中長期の成長要因となることが示されました。HPC向け半導体は、サーバー/ネットワーク向けの中でもよりハイエンドな用途向けで、高い市場成長が期待されています。サーバー・データセンター・AI・ネットワーク向けの基板はPCのものと比較して、基板面積が3.5倍、積層が両面で6層→18層と3倍になるなど、ABFの使用量が10倍以上になることが見込まれています。

ABFが使われるビルドアップ基板について

ビルドアップ基板とは?

 ビルアップ基板とは、ビルアップ法と呼ばれる手法で作製される基板のことを指します。ビルドアップ法とは、コア基板と呼ばれるガラスエポキシ基材の両面に絶縁層と導体層を交互に形成して多層基板を作る方法です。

製造工程

①内層回路基板を準備。一般的にFR-4あるいはFR-5相当のガラスエポキシ基材をベースとする基板が使用されます。

②フィルム状のビルドアップ材料から保護フィルムを剥離し、PETフィルムが付いたままの状態で、真空ラミネータを用いて内層基板の両面に絶縁樹脂をラミネートする。*ここでABFが使われます。

③ラミネートした絶縁樹脂からPETフィルムを剥離し、熱硬化を行う。

④レーザー加工によりビアを形成する。

⑤レーザー加工の際にビア底部分に発生するスミアと呼ばれる樹脂残渣を除去する(デスミア工程)。その後、絶縁材料上に直接形成した無電解銅めっき層を給電層として利用し、電気銅めっきで配線形成を行う。

⑥ ①~⑤を繰り返して多層構造を形成する。

出典:半導体パッケージ基板用ビルドアップ材料, 日本ゴム協会誌, 第84巻 第10号(2011)

味の素ファインテクノ株式会社(AFT)

会社概要

社名:味の素ファインテクノ株式会社(英文名:Ajinomoto Fine-Techno Co., Inc.)
所在地
 本社:〒210-0801 神奈川県川崎市川崎区鈴木町1番2号
 群馬工場:〒379-1204 群馬県利根郡昭和村森下2080-4
 活性炭事業部:〒230-0034 神奈川県横浜市鶴見区寛政町24番10号
設立日:1942年9月
資本金:315百万円
従業員数:365名(2023年4月1日現在)
主な事業内容:電子材料・機能材料・活性炭の製造・販売

【補足情報】
 前身の日本特殊油製造㈱が1942年9月に設立され、1945年に味の素の100%子会社となります。その後、1998年に味の素ファインテクノ株式会社が設立されます。1999年にはABFワニス製造工場が新設され、同年にABFの製造が開始されました。
 事業としては電子材料、機能性材料、機能化学品、活性炭の4分野に分けられ、ABFは電子材料事業内の製品と位置付けられています。

【参考】
歴史/ヒストリー – 味の素ファインテクノ株式会社|リンク
私たちについて – 味の素ファインテクノ株式会社 |リンク
会社概要 – 味の素ファインテクノ株式会社|リンク

味の素グループにおける位置づけ・半導体向け製品

 味の素ファインテクノは、アミノ酸製造における中間体を利用した新しい製品を開発し、製品化したことに始まり、味の素グループにおけるファインケミカル事業の中核を担っています。AFTでは、前述のABFに加えて、半導体チップの保護材料である封止材を製造しています。

参考記事・文献

味の素ファインテクノ株式会社 層間絶縁材料 味の素ビルドアップフィルム® (ABF)|リンク

ABFフィルム – 味の素株式会社|リンク

バーチャル事業説明・工場見学会 – 味の素株式会社|リンク

電子材料事業説明会における主要Q&A(2019年6月12日開催) – 味の素株式会社|リンク

味の素の電子材料(ABF)事業市場拡大に対応し、生産能力を3倍に増強 – 味の素株式会社|リンク

バーチャル事業説明・工場見学会 – 味の素株式会社, 2021年6月3日|リンク

電子材料事業説明会 – 味の素株式会社, 2019年6月12日|リンク

2023年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み – 味の素株式会社, 2022年11月7日|リンク

2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み – 味の素株式会社, 2023年5月11日|リンク

味の素、半導体材料でもう一つの「金メダル」, 日本経済新聞, 2021年9月7日|リンク

味の素社長、半導体絶縁材料好調で投資増額も-うま味調味料の副産物, Bloomberg, 2022年11月30日|リンク

半導体部品のサブストレートが逼迫、2025年まで解消せずの見方も, Bloomberg, 2021年9月16日|リンク

半導体パッケージ基板用ビルドアップ材料, 日本ゴム協会誌, 第84巻 第10号(2011)|リンク

ビルドアップ層とは, 株式会社アルバック, 2022年1月12日|リンク

次世代半導体製造向けの極微細穴あけ加工を実現 ―業種横断の協働拠点で先端半導体をけん引―, 国立大学法人東京大学・味の素ファインテクノ株式会社・三菱電機株式会社・スペクトロニクス株式会社, 2022年10月24日|リンク

藤森工業、約130億円の設備投資で電子部材事業を強化, 藤森工業株式会社, 2022/10/14|リンク

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